アカデミーライブラリー
永松名誉学長×キム先生対談
左:キム先生 右:永松先生
ハーネマンアカデミーの新たな歩み
2007年4月、ハーネマンアカデミーは新たな歩みを始めました。世界的名講師キム・エリア先生をレギュラー講師としてお招きし、また教育内容・方法の再構築を行いました。今回の改革の方向性、そしてこれからの展望について、永松名誉学長とキム・エリア先生にお話を伺いました。
永松先生
今日はメディカルコース開講にあたって、当校で学んでいる医師のみなさんと、医学会の現状とホメオパシーについてお話しする機会をいただきました。
今年度から、以前行っていたメディカルコースを復活することにしたわけですが、ホメオパシーをどうやって日本に健全な形で定着させていくかというときに、最も重要な鍵になるのが、Physician、即ち「人間存在の道理に基づいた真の医師」の育成だと思います。
そこには二つの方法、流れがあると思います。1つは、私のように医療的な資格を持っていない一般の方たちや、看護師、薬剤師、柔復師、鍼灸師など、医師以外の医療従事者が、真のPhysicianに向かっていくという流れです。 そしてもう1つは、医師、歯科医師、獣医師で、もともとホメオパシーに興味があり、なんらかそれまでの通常の医療にどこか疑問を感じていた医師が、真のPhysicianになっていくという流れです。
しかしその時には、それまでの自分の殻や思い込みをひとつひとつはがしていく作業が必要となり、それを最初から一般の方たちと一緒にやっていくのは難しいのではないか、ドクターという「仲間」のなかでそれをやりながら、後に合流していく方が自然ではないかという主旨でつくったのが以前のメディカルコースです。今でもその意味はあると思っていますが、ここにきて、わざわざ分ける必要もないのではないかと感じるようになりました。
二つの流れがあると申しましたが、特に医師免許を持っている人に、真のPhysicianになってもらわなければならない、ある意味生まれ変わってもらわなければならない、それをより進めなければいけない、と強く決意しました。
本来はこれが本命なんです。本来ホメオパシー、人間の道理に基づいた医療は医師がやらなければならないものなんです。それが医師というものであり、Physicianなんですから。しかし「医師免許取得者」が医師でないと申しますか、Physicianになる訓練を受けていない、というところに最も根幹的な問題があるのです。
医師のみを対象にしたホメオパシー医学会という団体がありますが、医師がPhysicianになっていくことを、医学会だけに任せていたのでは難しい。残念なことにそこでは最もホメオパシー的でないような状況が続いているからです。医師がPhysicianになっていく道を研修するのではなく、単に「医師免許取得者」を変革しないままで特別扱いし、「医師免許取得者」以外を排除するための「圧力団体」のようになっています。
一応そこで短期間のホメオパシー研修を受けたけれども、事実上何もできない、ある種「難民」になっている人がどんどん増えています。それは当然です。何年もかかる研修を、たった一週間程度の研修でできるわけがありませんから。それは医学会だけの問題ではありませんが。
ホメオパシーをちゃんと学んでみたいという高い志を本来持っていた人たちを、その原点に引き戻したい、そういう状況を捨ててはおけない、我々としてもそこに力を傾注していきたいという強い思いがあります。
そこで、夏休みに行う集中コースからスタートして、スーパーバイズ付きのセッションを2年生から行う『メディカルコース』をスタートします。このコースでは、勉強したはずなのに、なぜうまくいかないのかを含めて、ある程度のことができるようなカリキュラムを5日間やり、それをきっかけにして、本格的に4年制のコースに入ってもらえたらと思っています。今年度から当校では新しいカリキュラムを導入しますが、その目的といいますか、方向性についてのお考えをお話ください。
キム先生
まず申し上げたいのは、こちらの学校の現状にはとても感銘を受けています。先週こちらで教えたときに、いくつかのケースをやりました。このケースは別の講義でも教えたことがありまして、そのときのクラスには35年以上臨床で実践している人もいましたが、誰もそのケースの問題を正しく解決することができなかったんです。ですがこちらの学校の生徒さんの何人かは、それができました。これはこれまでこの学校でやられていた教育が素晴らしかったのだと思います。そしてもちろん、これから一緒に、より高いレベルを目指していくことにも喜びと期待を感じています。
永松名誉学長と一緒に、4年間のカリキュラムを新たにしました。これはクラシカル・ホメオパシーの真髄に根ざしたものと言えます。私は歴史を学ぶことは本当に重要だと考えています。歴史はたくさんのことを教えてくれます。有名な歴史家であるサンタヤナは、「歴史から学ばない者は、その過ちを繰り返すことになる。」と言っています。ホメオパシーの歴史を振り返ったときに、非常に成功した例と、そうでない例があるのを見て取れます。ホメオパシーが成功しなかった時、多くの場合、ホメオパシーの基本原理を理解しなかったことによります。基本原理をおざなりにして、基本原理に反するアプローチをしているのです。ホメオパシーの創始者であるサミュエル・ハーネマンは真の天才であり、彼の偉業は物事の真髄を含むものであり、何度も繰り返し学ぶに値するものなのです。
永松名誉学長に、こちらの学校で教えることを依頼されたとき、私は歴史上のある時代を思い出していました。1864年から1869年にかけて、アドルフ・リッペという偉大なホメオパスが、ペンシルバニアのホメオパシーカレッジで教鞭をとったときのことです。リッペは、病理学のクラスから何から何まで全てのクラスを教え、そしてハーネマンの基本原理、オルガノンに記されている基本原理に忠実に従いました。そしてその期間の卒業生たちは歴史上に類が無いほど、驚くほど優秀でした。最高レベルの処方をし、当時北アメリカで流行った伝染病において、彼らの治癒率は98から99%であったのです。そして学長であったアドルフ・リッペは、50年間の臨床のなかで、その極めて多忙な臨床のなかで、1つのミスもしませんでした。1つのマラリアも、1つの腸チフスも、治癒できなかったことはなかったのです。50年間です。これは素晴らしい成功です。われわれは、なぜこのようなことが可能であったかを学ばなくてはなりません。ですから私は今回カリキュラムをつくるにあたって、この史実をモデルとして、このような成功を実現できるような学生を育てることを目指しました。これからホメオパシーは世界中で成功をおさめてゆくと信じています。そしてそのためには、限られた少数の人々だけでなく、多くの人々が真のマスターとならなくてはなりません。ですから学長や他の先生方と一緒に、卒業生がホメオパシーにおいて最高のレベルで成功をおさめられるようなプログラムをつくってゆきたいと考えています。
永松先生
クラシカル・ホメオパシーという言葉を、どのように定義されていますか?そしてそれはホメオパシーの真の発展とどのように関係があるのでしょうか。
キム先生
クラシカルというのは、西洋の教育では、といっても本当はどの教育でも同じだと思いますけれども、「原典・原点に戻る」という意味です。今日の教育では、われわれは二次的な情報に接することがほとんどです。テキストを開き、テキストにはその時代に何が起こったのかが書いてありますが、そのやり方では偉大な発見をした人の原点に触れることはできません。クラシカル、つまり古典的・原典的・正統的なアプローチでは、偉大な発見者の原典を読みます。そうすることで学生は、その発見を自分のなかで再発見できるのです。ただ読んで記憶して、テストのあとには忘れてしまうのとは違います。過去の偉人が通った発見のプロセスを、再び自分自身で通るのです。これによって、真の知識というものが育てられるのです。ホメオパシーについて言うなら、これは創始者のハーネマンの原典に戻り、それを学ぶことを意味します。また偉大な他のホメオパス、たとえばヘリングやリッペやクラーク、ベニングハウゼンといった人たちの原点に返って、その原典を読み、その人がどのようにして来たのかを理解するのです。その偉人の思考探求を再び通り、ホメオパシーの発見を自分自身のなかで再発見するのです。これは、現代のホメオパシーの世界で起こっていることを無視することではありません。しかしそういった学びで得た基盤によって、クリティカル・シンキングを養い、またホメオパスとして成功するための成長を遂げられるのだと思っています。
永松先生
クリティカル・シンキングは、この学校で今まで最も力を入れてきたところですが、先生のお考えをお話いただけますか?
キム先生
クリティカル・シンキングですね。今日は世界のほとんどの教育システムにおいて、多くの人は教師の前にただ座り、何を言われているのかわからないままノートをとり、それを記憶してテストで頑張って、そしてテストのあとには忘れてしまいます。私はプラトンのやり方でやってゆきたいと考えています。プラトンの対話では、「これが正義だ、これが愛だ」などと、ただ何かを主張していくだけではないのです。これはプラトンのいう対話で行うことではありません。プラトンの対話では、ある課題が討論された場合、たくさんの人物にそれぞれの観点を持たせ、自分自身はその全ての人物のガイド役として、それぞれの観点に身を置き、様々な観点から課題について考えなくてはなりません。このやり方が、クリティカル・シンキングを育てます。考えることにおける柔軟さを育てます。自分自身に、その課題の本当の意味、真髄は何かと問うのです。このプロセスは、ホメオパシーだけではなく人生のあらゆる面で必要だと思います。そして今回のプログラムで導入してゆきたい基本のひとつでもあります。
永松先生
ありがとうございます。最後に、キム先生はどのような雰囲気で授業を進められますか?
キム先生
私はソクラテス・メソッドが好きです。講義では対話があり、その対話のなかで学生たちが自分自身でその課題について考えることができる、そういったやり方が好きです。そういうやり方でのみ、真の学びがあると考えています。対話のなかで物事の深いレベルまで考えることができる、そういった学びの場をつくることができたなら、学生たちはホメオパシーが一体なんであるのかを自分自身で学んでゆけるのだと思います。これはいわゆる講義が全くないということを意味しているのではありません。実際ホメオパシーではたくさんの情報と学習を必要とします。ですが対話の雰囲気というものが、真の偉大なホメオパスを育てていくのだと考えています。
永松先生
そうですね、まったく同感です。今日はありがとうございました。すでにコラボレーションは始まっていますが、これから将来的に起こってゆくことを本当に楽しみにしています。