アカデミーライブラリー

レメディー物語

プルサティーラ
(Pulsatilla)

一人ぼっちは嫌なんです…。~見捨てられる恐怖。風に吹かれてひっそりと。

  • 名前 プルサティラ風子 女性 20代半ば
  • 職業 ピアノ教室講師
  • 悩み 月経困難症

 

風子は、情にもろくて、泣き虫で、感情がコロコロと変わるけれども、穏やかで、優しい子。人とぶつかることも苦手で、先生や親や友達の言うことはとても素直に聞くけれど、その分、とても甘え上手だった。一見、弱々しそうに見えるけれども、芯は強く、相手に合わせながらも、いつの間にか、自分のペースに相手を巻き込んでいるのであった。

 

* * *

 

風子が小学校3年生の頃。仲の良いA子ちゃんは活発な女の子で、内気な風子はいつも彼女に頼りきっていた。恐がりな風子が学校の薄暗いトイレに1人で行くことができないでいると、見かねたA子ちゃんは、いつも一緒について来てくれた。そのかわり、うっかり者のA子ちゃんが忘れ物をしたときなどは、風子は快く自分のものを貸してあげた。「A子ちゃんコンパス忘れたの?じゃあ一緒に使おうよ。」 A子ちゃんにお礼を言われると、風子は嬉しくてニコニコするのだった。

 

ある日の放課後、風子とA子ちゃんは、学校の裏山で遊ぼうとクラスメートに誘われた。裏山で遊ぶことは禁止されていた。潔癖なところもある風子は、先生の言いつけを破りたくはなかったが、A子ちゃんは行きたそうだった…。「風子ちゃんどうする?」「うん…A子ちゃん決めて。」 優柔不断な風子は、自分で決めることができない。後で先生に叱られるのも嫌だったが、A子ちゃんに置いて行かれるのも嫌だった。一人ぼっちになるのが恐かった。

 

秋の裏山にはドングリがいっぱい落ちていた。風子たちは夢中になって拾い集めた。屈んでドングリを拾うのは以外に骨が折れる作業で、一生懸命になるうちに、体は暖まってポカポカしていた。気が付くと、日も暮れてあたりは薄暗くなっていた。風子は急に心細くなって、A子ちゃんを探した。A子ちゃんは他の子と楽しそうにしていた。風子はなんだか嫌な気持ちになった。嫉妬していた。A子ちゃんはそんな風子にまったく気が付いていない。しばらくすると、目の前のドングリが霞んで見えるようになった。風子は恐くなって泣き出した。みんなが気付いて、風子の周りを囲んだ。「どうしたの風子ちゃん?大丈夫?」「目がよく見えない。おうちに帰りたい…。」 みんなが慰めてくれるうちに、風子は泣き止んで、目もちゃんと見えるようになっていた。

心配したA子ちゃんは風子を家まで送ってくれた。手を繋いで、いつもよりゆっくりと歩いて帰った。風子はだんだんと気分も良くなっていた。

 

「風子ほんとうはね、裏山で遊びたくなかったんだ。でも、A子ちゃん行きたそうだったから…」
「そうだったの?言ってくれればいいのに。じゃあもう行くのやめようね。」
「えっいいの?ごめんね。でも、ありがとう。」 A子ちゃんの優しさに感動して、風子はまた泣いてしまった。とても涙もろいのであった。

 

* * *

 

それから数ヶ月。早春のまだ寒い頃、ストーブの焚かれた暖かい教室で、風子は鼻をズルズルとやっていた。小さいころから鼻カタルで、夜は鼻が詰り、朝は黄緑色の鼻水がいっぱい出た。暖かい部屋にいるとひどくなり、新鮮な冷たい空気に当ると良くなった。

 

「今日は、みなさんに残念なお知らせがあります…」 その日の朝、突然A子ちゃんの転校が発表された。風子は耳を疑った。ストーブの暖気で頭がボーっとするようだった。先生はもう一度同じことを言った。「A子ちゃんが転校します。」 風子は気が遠くなった。

 

休み時間になると風子はA子ちゃんの席に行き、腕にしがみついて泣いた。午後からは耳鳴りがするようになり、耳の奥が痛くなった。夕方、医者に行くと中耳炎と言われた。夜になると痛みがひどくなり寒気がした。鼻が詰って、息苦しかった。風子は寒気がすると言いながら、暖かい部屋を嫌がって、窓を開けて欲しいとか、訴えるような声で母親にぐずって甘えた。中々寝付かず、一晩中汗をかき、ずっとA子ちゃんの話ばかりして、メソメソ泣いていた。

 

翌朝、母親が様子を見に行くと、いつもに増して、ベッドの中の風子は弱々しかった。ゆっくりと起き出し、伸びをすると、トイレに行った。(こうすると、夜の間に体に溜まった水分がちゃんと排出されるようだった。) 黄緑色の鼻水はいつもよりたくさん出た。

 

3月にはA子ちゃんのお別れ会があり、風子はたくさん泣いた。4月になると、転校生のB子ちゃんがやって来て、風子は一緒に遊ぶようになった。二人ともお絵描きが大好きだった。休み時間になると、二人は手を繋いでトイレに行くようになった。放課後には空き地の原っぱで、花冠を作ったりした。すっかり仲良しの二人の間を、春風が通り過ぎていった。風子とB子ちゃんはクスクスと笑って、とても楽しそうだった。

 

* * *

 

狭い劇場の中は熱かった。風子は寒がりであったが、熱さには全く耐えられなかった。「なんだか熱くない?」「そうかな。何か冷たいもの飲む?買って来るけど?」 風子は喉が乾くということがあまりなかったので、何も頼まなかった。C太郎が席に戻ってくると、ちょうど舞台の幕が上がった。演目は『瞼の母』であった。昔ながらの人情劇に、涙もろい風子が泣かないわけはなかった。「二度も捨てられるなんて、忠太郎って本当にかわいそう。それにしてもひどい母親。子供を捨てる親なんて最低よ…」 主人公に同情して泣いた後、母親のことは手厳しく非難した。それは、かなり独断的でもあった。C太郎はなぜか気まずそうだった…。そして二部の歌謡ショーが始まると、今度は大笑いし、フィナーレではまたまた感動に涙して、舞台に大きな拍手を送ったのであった。風子の感情はコロコロと変わり易かった。

 

夕食はフレンチのお店だった。風子は胃腸が弱いので、脂っこくてこってりした食べ物は苦手だったけれど、C太郎が予約までしてくれていたので、すごく喜んでみせた。しかし料理の半分は残してしまっていた。冷たい食べ物が好きで、全部食べたのはデザートのシャーベットだけだった。食事が終わると、C太郎は急にあらたまった態度になった。大事な話しがあると言う…。

「私のこと見捨てる気!?」 いつもは温和な風子だったが、つい声を荒げた。C太郎とは学生の頃から付き合っていたが、突然に別れ話を切り出された。店中の視線が集まったが、そんなことはどうでも良かった。すでに別の人と付き合っているという。風子は懇願するように泣いた。最後には、C太郎が追っかけて来てくれるだろうと期待して店を飛び出したが、結局そうはならなかった。冷えた外気の中、夜道をフラフラと歩くうちに、混乱の中から風子はだんだんと冷静さを取り戻していた。そのまま、ふた駅ほど風子は歩き続けた。途中、激しい通り雨に遭い、冠水した歩道で足をすっかり濡らしてしまったが、構わずに歩き続けた。

 

家に帰ると、すぐにベッドに横になった。左側を下にして寝ていると、次々と不安が押し寄せた。心臓が波打つたびに、トクン、トクンと、耳元で脈の音がした。嫉妬から病気になりそうなほど、相手の女性が妬ましかった。

 

それ以来、C太郎から連絡はなかった。そして風子は本当に体調を崩してしまった。思春期以来良くならないニキビが悪化し、生理前には、お腹の重苦しさがいつもよりひどく、生理が始まると、腰も痛くなり、下半身に痺れが出た。もともと生理は不規則で、黒っぽい血で量も少なかったが、こんなにひどい月経困難症は初めてであった。婦人科に行くと、ストレスが原因ではないかと言われた。

 

風子は思いあぐねて、女々しいとは思ったが、C太郎に電話した。「風子は優しいし、世話も焼いてくれるし、頼られて嬉しくもあったけど、なんだか、一緒にいるのに疲れちゃったんだよ。いつも僕に合わせてくれようとしてたけど、そうすると、自分の意見を言ってくれないからさ、こっちが気を使ったりして。気が付いたら、僕の方が風子に合わせてたみたいで。多分、そういうことだと思う…。」 そんなつもりは無かっただけに、風子はショックだった。じゃあ、どうすればいいの?嫌われないように、見捨てられないように、いつもC太郎のことを思っていたつもりなのに…。風子は、そんな自分のことがかわいそうになって、涙が出てきた。しばらく泣いた後、放り出した電話器を拾うと、友達の番号をプッシュした。今すぐ、誰かに慰めてもらいたかった…。

プルサティーラは、「見捨てられることへの恐怖」が、自分のなかに深くあるレメディです。見捨てられたくないというテーマは、さまざまなことに表現されます。愛らしく従順、臆病、依存的、人を喜ばせたがる。また見捨てられないために、あらゆることをします。たとえば自分以外の人が何か目をかけられていたり、自分に注意が向いていなかったりすると、非常に嫉妬し得るレメディです。英語の一般名はWind Flower。風に吹かれながら、ひっそりと咲く様子からも、レメディの在り方を感じることができます。

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